
文責・大澤良貴
クワン
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自分の記憶も正体も知らぬうちに、突如この世に現れた少年。妖異を喰らい、人間はなれした怪力を振るう。自らの正体を探す旅をしており、その鍵となる『太平清領書』を追い求めている。 |
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その正体も自分自身の記憶も持たずに、突如、混沌たる世界に現れた少年。小さな体に相応しい身軽さと似合わぬ怪力を持っている。大食いだが食べるのはあくまで世に徘徊する魑魅魍魎のみで、普通の人間の食べ物は口に入らない。自分を「天」から来たといっている事から人間ではないのはわかっているようだ。自分を傷つけた相手を喰らう事によって、その者から受けた傷が治るというと特技も持っている。 著莪によればクワンは、世界そのものを紡ぐ竹簡(竹を糸で編んだもので、紙ができる前に文字を記録していた媒体)のようなもので、現在は壊れているという。その綻びを繕うには『太平清領書』が鍵となるらしいのだが、クワンの綻びが繕われたとき、何が起きるのか? それこそが作品中の最大のキーとなるであろう。 ちなみに著莪はクワンを“鰥”と呼んでいる。鰥とは、魚のヤマメのことであり、鰥夫と書いて“やもめ(妻を亡くした男性)”と言う意味になるのだが…… |
ダキ
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クワンの前に姿を現した蟲使いの少女。父の命令で『太平清領書』を捜し求めるが、その途中でクワンと出会い、行動を共にする事になる。人ではなく蟲たちに育てられた過去を持っており、実はクワン同様正体不明だったりする。 |
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蟲使いの少女で、さまざまな蟲を操る術を使う。元々は蟲たちの森に突然赤子として現れ、蟲たちによって育てられた事から、蟲たちと意思を通じ合う事ができるようになったらしい。彼女からすれば蟲を使うというよりも、仲間である蟲たちに“お願い”するという感覚らしい。始めは蟲の森の長である騰蛇に育てられるが、ダキが病となって折に、人間の体と知識を持つ蜘蛛こと遊糸の養女とされる。遊糸は彼女を娘としているが、必ずしもその扱いはよろしくない模様である。 クワンは彼女を人間ではないと認識して喰らおうとするが、ダキを食う事はできずに接吻となってしまったという微笑ましいシーンがあるが、ダキがただの人間ではなく、なおかつ妖異でもないという謎を表しているシーンでもある。 阿瞞は蛇を“母”と呼ぶダキを“蛇姫”と読むが、どうもそれだけの名ではない模様である。というより名付けたのは誰なのかも気になるところだ。 |
帝江(ていこう)
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クワンの側にいる変な生き物。実はこれでも神であり『山海経』には「そのかたちは黄色い袋のごとく、赤いことは丹の火のよう、六つの足、四つの翼、混沌として面も目もないが、この神は歌舞にくわしい。まことこれぞ帝江である」とある。 |
| クワンの側にいつもついている変な生き物。なんともふざけたデザインの生き物だが、作者のオリジナルというわけでなく、れっきとした中国神話に出てくる存在である。 しかし、これでもその正体は中国神話の立派な神様であり、しかもかなり格の高い神だったりするのである。 中国の古代神話を載せた書『山海経』には「天山には神がいる、そのかたちは黄色い袋のごとく、赤いことは丹の火のよう、六つの足、四つの翼、混沌として面も目もないが、この神は歌舞にくわしい。まことこれぞ帝江である」と描かれる。こんな変な生き物のくせに道教では万物を生み出した混沌の父であるとされているのである。 |
智恵(ちけい)
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クワンの力を知り、金目当てに同行している小悪党。しかし、意に反してクワンを巡る騒動に振り回され、すっかり貧乏くじを引いた様子である。根はお人好しだが、腹の底ではなにやら野心を秘めているようである。 |
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なんの変哲もない、ただの小悪党として描かれる智恵。お供えを盗んだり、クワンを利用して銭儲けをしようとしたり、とやる事なすこと小人の典型である。とはいえ、クワン一行では唯一まともな人間ともいうべき人物であり、それだけにヒドイ目に遭い続けている。しかし、その一方で遊糸に「韜晦して底に秘めた野心は美味」などと言われている事から、なにやら腹の底では一筋縄ではいかない部分を秘めているようだ。それ故にこそ、なんだかいろいろと“事情”を心得ているらしい著莪に好かれたりもしているのだろう。いったい彼がどのような過去を送ってきたのかも気になるところだ。 おそらく彼の行く末には驚かされることだろう。 |
遊糸(ゆうし)
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ダキの父という謎の男。天下を制するという大それた野心を持ち、そのために『太平清領書』を追い求めている。その正体は人間ではなく蜘蛛の妖異である。蟲たちを異常成長させるダキの力に注目し、彼女を娘として騰蛇から奪い去った。 |
ダキに父と呼ばれる謎の男。その特徴ある髪型は一度みたら忘れられないものがある。その正体は蜘蛛の妖異であり、蟲の眷属として騰蛇らとも面識があった。極めて人間に近い感性を持つ妖異であり、なんと黄河を制する、すなわち天下を制する事を目論むという非常に俗っぽい野心を持っている。 彼はダキの周囲の虫たちが異常なまでに妖異として成長するという特徴を見抜き、ダキの力を自分が利用しようと、ダキを騰蛇から譲り受けるのであった。彼はそれを持つ者が天下をも制するという『太平清領書』を、自らが手にしようと様々に画策する。 というわりにはちっとも成功せずにブチ切れるあたり愛すべき妖異ではある。 |
阿瞞 (あまん)
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洛陽に住む大富豪曹家の御曹司。子供とは思えないほどの頭の回転と知識を持っている。クワンたちと出会って、この好奇心の強い少年は興味本位で彼らに協力する事になる。後に漢王朝を滅ぼす、魏王曹操の少年時代である。 |
| 後漢王朝が事実滋養崩壊した後に起こった戦乱の時代を勝ち抜き、河北・中原という当時の人口密集地帯を制して、漢土の八割までも制したとされる覇王曹操。有名な『三国志演義』の物語の中では、主人公劉備に敵対する敵役として有名である。政治、軍事など多岐に渡って才能を発揮し、あらゆる方面で後世に影響を与えている。また卓越した文人でもあり、『孫子』を現在に残る形で編纂し、また詩人たちを集めて「建安の風骨」と呼ばれる文学の時代を築くなど、文学史方面での貢献も大きい。本人も『短歌行』や『苦寒行』などの名詩を後世に残している詩人でもあった。 |
著莪(しゃが)
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年齢不詳、正体不明、という謎の遊女。どうも普通の人間ではないらしく、クワンの正体についてなにか知っている模様である |
| 著莪とはアヤメ科の花で、別名、胡蝶花(こちょうか)とも言う。一介の遊女でありながら、クワンが人外の者であることを見抜き、クワンに『太平清領書』の存在を教えるなど、彼女自身も人にあらざる者であるのは間違いないようだ。彼女の言葉によれば、少なくとも赤眉の乱の頃から生きているらしく、年齢は完全に不詳である。奢莪の別名である「胡蝶花」が、“胡蝶の夢”を想起させるのは偶然ではないだろう、その夢を見るのはいったい誰なのか・・・ |
襄楷(じょうかい)
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道教を修めた方士であり、『太平清領書』の著者于吉の弟子。『太平清領書』にもっとも近い人物であり、この書を通じて新たな時代を模索している模様である。 |
| 後漢に活躍した方士の一人で『後漢書』に襄楷伝がある。後漢という時代は、それまで原始的な道教が、体系化組織化され現在の形になるという意味で、宗教史でも重要である。その経典が『太平清領書』であり、彼の師である于吉がこれを記し、最初、宮崇が、そして後に襄楷が帝に献上していることから、宮廷内での道教の布教に尽力した人物であると思われる。方士として歴史の裏で様々な動きを見せていたようであり、後に宦官倒滅の陰謀に荷担している。 |
陳蕃(ちんばん)
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字を仲挙。後漢の改革を求めた“清流派”の名士であり、漢王朝の腐敗を憂いている。漢王朝の改革に襄楷に意見を求め、「蒼天已死」の言葉を伝えられた彼がとった手段とは……。 |
| 後漢の歴史は皇帝の姻戚である「外戚」と皇帝の身の回りの世話をする去勢奴隷である「宦官」との勢力争いの歴史といっても過言ではなかった。しかし、後漢末期に第三勢力として、中央の混乱をよそに勃興してきた地方豪族たちが台頭する。彼らの子弟は、洛陽の太学において教育を受け、知識人として外戚や宦官たちの政治を批判する。そして宦官たちを"濁流"と罵倒し自らを"清流"と名乗った。その清流派の中心人物で陳蕃である。彼は幾度となく宦官を政治から遠ざけるように尽力するが、当時の皇帝たちはこれを受け入れられず、ついに非常手段をとるまでに追い詰められるのである。 |
曹騰(そうとう)
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阿瞞の祖父で、元宦官である。大長秋という宦官最高位まで上り詰めた人物であり、引退後も宮廷に大きな影響力を持っているようだ。実に食えないジジイであり、『太平清領書』について何か知っている模様である。 |
| 後漢における宦官の大物。皇帝ですら暗殺されるという、謀略渦巻く後漢宮廷の中で30年にも渡って帝に仕え続け、しかも常に帝に信頼され続けていたというから、その政治力のほどが分かる。宦官の中では例外的に、外戚、宦官、豪族たちのいずれに対しても顔が利いたという当時における宮廷の影の大物とも言うべき人物である。人物眼ににも優れ、彼が推薦した人物はいずれも天下の名士と言われたという。曹操の祖父は、曹操にも劣らぬ大人物であったのだ。 |
張奐(ちょうかん)
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曹騰に取り立てられ、辺境で異民族討伐に功績を挙げている武将である。当時きっての豪傑であり、陳蕃によって都に招聘されたところをクワンと出会う。 |
| 字を然明。後漢末期に活躍した猛将である。曹騰によって見出され、匈奴や羌族などの異民族討伐に功績を挙げている。武勇ばかりでなく、書の達人でもあり名文家としても知られている。しかし、一六七年の陳蕃による宦官討伐のクーデターの際に、彼は宦官に騙されてクーデター部隊を鎮圧。陳蕃たちは殺害され、後に清流派の大弾圧である「第二次党錮の禁」を引き起こしてしまう。彼もまたこの党錮の禁に連座して流刑となるが、死ぬまで慙愧に耐えなかったという。 |
騰蛇(とうだ)
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蟲たちが住む森を統べる蛇である。突然、森に現れたダキを大切に育てていたが、ダキが病にあったときにどうしようもなく蜘蛛こと遊糸に助力を求める。宮廷にクワン一行が侵入したときに、ダキと再会するのだが……。 |
青糸額(せいしがく)
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ダキが遊糸に預けられた折に、その護衛と遊糸の監視のためにダキの側についている。その正体は雀蜂の妖異であり、槍を使わせればかなりの戦闘力を持つ。一方で世話好きであり、忠誠心に篤い好人物でもある。 |
白飛孤(はくひこ)
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青糸額とともにダキについた雀蜂の妖異。クワンとの戦いでクワンに喰われてしまう。理屈っぽい青糸額に比べると喧嘩ッ早い武闘派。後にクワンに吐き出してもらうが、力の大部分を失い、蜂形態しかとれない模様である。 |
???
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クワンの母(?)として登場した、犬と蛇を合わせたような存在。彼女の正体が、クワンの存在の謎をとく鍵となる……。 |
于吉(うきつ)
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どこからか落ちてきたクワンを拾い、彼の名付け親となった人物。見た目はこんなだが、著莪ですら畏れるほどの力を持った道士らしい。襄楷の師でもある。 |
ある意味神仙文化のもっとも華やかな時代の一つである後漢末期において、于吉は最も謎めいており、かつ力を持った仙人であったようだ。彼は後に大乱を起こす太平道の伝説上の始祖として『太平清領書』を編纂している。現在にまで残る道教が、太平道と同根の五斗米道を起源をする事から、道教の教祖として位置付けてもよいかもしれない。
もっとも、于吉の名前が有名なのは『三国志』の中で、江東の小覇王孫策を祟り殺したという話によってであろう。こちらの于吉は、江南・江東において大勢力を築いていた宗教組織の長で、孫策陣営にも多数の信者を抱えていた人物である。それを不快に思った孫策によって、于吉は殺害される。だが、前述した于吉とこの于吉は時代も地方も掛け離れており、おそらく信者を集めるために道教の伝説的仙人である于吉の名を借りた者であろう。
しかし、皮肉な事に後世において有名なのは“于吉”は偉大なる仙人于吉ではなく、その名を借りた後者なのであった。